志望校の決め方

学部・学科が決まったら、それらを設置している大学の中から志望校を決めることになります。とはいえ、既に一通り受験校が決まっているという方ばかりではないかもしれません。第1〜第3くらいまでの上位志望校は早くに決まったものの、それ以外の併願校が決まらない方や、それすらもまだ決まっていないという方など、人によって状況が異なると思います。そこで、上位校が中心の志望校選びから、現状もふまえた実際の受験校選びまでの流れと、どう決めたらいいのかについてのご提案をしたいと思います。

さて、志望校を決めるにあたり、保護者の方も含め、受験生が重視する主な条件は、だいたい以下の通りです。

1.国公立か私立か

当たり前と言えば当たり前ですが、どちら(を中心)にするかは、今後の受験勉強に大きく影響します。科目数も違えば、記述かマークかの違いもあります。そして、これには保護者の方のご意向や、高校の進学指導の方針も影響します。「5教科も勉強できないから私立」「きょうだいが多いから国公立」などといった単純な発想だけでは合格は難しいだけに、どうすることがベストなのかはよく考える必要があると思います。

2.やりたい勉強ができる(志望の学部・学科がある)かどうか

当然ながら、この条件は必須です。いくら自宅から近くても、学費が安くても、雰囲気がよくても、やりたいことができなければ何もなりません。やりたいことの方向性が決まっているからこそ、どの大学ならできるかという視点で探すことができますし、なかなか決まらないという方は、そもそも「自分のやりたいことは何か」がはっきりしていない場合が多いのです。多少漠然としていてもかまいませんので、まずはやりたいことの方向性を定めましょう。そうすれば、おのずと大学は限定されてきます。

3.カリキュラムの内容

これは言わば、自分のやりたいことができる大学かどうかを具体的に判断する基準になるものです。例えば歴史を勉強したい場合、文学部史学科がある大学であればどこでもいいとは限りません。歴史は大きく分けると、日本史・西洋史・東洋史・考古学に分けることができますが、設置している講座は大学によって異なります。日本史に特化した講座が多い大学を希望する方もいれば、これらをまんべんなく勉強した上で研究テーマを決められるような大学を希望する方もいます。これらが大学によってどうなっているのかを知るのに最適なのは、各大学のカリキュラムを確認することです。もっとも、これにこだわりすぎると、その分受験校数が限られてきますし、カリキュラムを見ただけで全てがわかるわけではありませんが、これらを比較検討することも立派な「大学研究」です。カリキュラムにどこまでこだわるかは自分次第ですが、それによって上位志望校も併願校も決まってきますので、志望校を決める上で非常に重要な要素になります。

4.取得できる資格

これは例えば、医学部の医師免許や薬学部の薬剤師免許など、志望する学部と将来就きたい職業とが直結し、「その資格を取得するにはこの学部に入らなければならず、その資格を取得しないと仕事に就けない」というような場合は特に問題ありません。また、教員になるために教育学部を選んだり、司法試験や公務員試験に合格したいから法学部を選ぶなど、絶対にそうしなければいけないわけではないものの、明らかに有利なので限りなく直結しているに等しい場合も同様です。受験生は最初から、そのことを前提に志望大学・学部を決めるからです。関係してくるのは、例えば国際学部のTOEIC、商学部の簿記、文学部の教職課程や図書館司書、文学部史学科や理学部生物学科の博物館学芸員など、資格を取ることが前提ではないものの、専攻分野に関連する資格がその大学・学部で単位を取れば取得できたり、大学主催の資格取得講座が開講されていたりすれば、自らの人間としての幅を広げられるのでメリットが大きい場合です。最初から意識している資格であればもちろんですが、「これだけの資格が取れる」とわかれば、少なくとも興味はわくと思います。せっかく大学に行くのですから、資格などの「副産物」は豊富なのに越したことはありません。実際、私の職場の予備校でも、「元々取得が前提の資格だけでなく、いろいろな資格が取れるので、この大学を第一志望にしました」と言ってくる生徒が少なくありません。

5.知名度や伝統

これを前面に出してくる生徒や保護者の方ばかりではないものの、本音ではかなりこだわっている方も多いと思います。無名よりは有名な方がいいですし、高校にしても予備校としても、1人でも多くの生徒を有名大に送りたいのが本音です。また、日本はどちらかと言えば昔から保守的で、たとえ時代の最先端を行っていても実績が未知数なものより、必ずしも成長期にいるとは言えないものの、過去の栄光と実績を持っているものに魅力や価値観を見出す傾向にあります。

そしてそれは、大学をはじめとした学校、つまり学歴に顕著に表れます。時代の最先端の研究をしている設立10年程度の大学より、最先端かどうかに関係なく、旧帝大や早慶が好まれるのです。就職にしても、日本からなかなかベンチャー企業が出てこないのも、難関大の学生ほど大企業を目指す傾向があることも、その象徴と言えるでしょう。実際、受験生にとっては数少ない判断基準であることは間違いありませんし、世間体が良いのは正直気持ちがいいものです。ただ、ぜひ認識していただきたいのは、知名度や伝統だけが全てではないということと、知名度や伝統のある大学も昔は無名でしたし、伝統校にも設立1年目があったということです。また、例えば上智大のように、保護者の方よりも上の世代にとっては無名でも、今では日本を代表する大学になっているところもあります。「自分が行くことで知名度を上げてやる!」「自分自身がブランドだ!」くらいのつもりで受験する大学もあれば頼もしい限りです。

6.所在地、自宅からの距離・通学時間、下宿の必要性の有無

これも重要です。東京では、バブル期に郊外に移転した大学が、こぞって都心に回帰しています。実際、都心回帰した大学では受験者数を増やしていますので、大学側にとっても重要です。また、毎日のように通学する前提ですので、やはり自宅からの距離や通学時間は無視できません。出席を取らず、単位を落とす心配がなさそうな講義が多くなれば、遠くて時間がかかれば徐々に大学から足が遠のく可能性はないとは言えないでしょう。もっとも、遠くても時間がかかっても何とか通えればまだいいですが、さすがに東北在住の方が、毎日東京の大学まで通うわけにはいきません。そしてその場合、保護者の方に東京の大学を受験することや、合格したら下宿することについての了解を取らなければなりません。これが可能なら選択の幅が広がりますが、お許しが出ないようであれば、自宅から通えるかどうかを基準に探さざるを得ません。そういう意味では、東京などの大都市圏にお住まいの方のほうが、選択肢が多い分有利だと言えるでしょう。いずれにしても、自分の判断だけで決められないという意味では重要な要素です。

7.偏差値・難易度

良い悪いは別にして、これはさすがに無視できないと思います。実際、これらがないと志望校に入れるかどうかをはかる「ものさし」がなくなってしまい、大学選びがかなり厳しくなります。ただ、世間ではこの弊害ばかりがクローズアップされています。過剰に意識するあまり「入れる大学」「身の丈に合った大学」を選ぶ「守り」の傾向や、逆に偏差値が1でも上の大学に入るために詰め込み教育を行い、過度な競争に若者を巻き込んでいる、といったことです。また、予備校側としては、偏差値40台なのに早慶に行きたいといった生徒が増えたり、高校側が偏差値に関係なく全生徒に難関大を目指させたため、その弊害のあった(要は落ちこぼれた)生徒の対応をしなくてはならなかったりといった「弊害」はあります。そういう意味では、自分の現状を知り、上位志望校との差がどのくらいあり、あとどのくらいがんばれば射程内に入れるのかなどを把握し、その上で、どの大学なら合格の可能性があり、どのレベルまで受ければ「全滅」が回避できるのかを知るきっかけにできれば、偏差値や難易度を「ものさし」として理想的に活用できるのではないでしょうか。

8.校風、キャンパスの雰囲気

これも重要です。「自分に合っていると思っていた大学にいざ入学してみると、思っていたのと違っていた」ということはもちろんありえますが、数的には少数だと思いますし、少なくとも「自分には合わない」と感じた場合は、その判断はほぼ間違いないと思います。ただ、パンフレットやHPからの印象や、周りの人からの評判だけで「自分には合っている」と決めるのは避けた方がいいと思います。実際、「思っていたのとは違った」という事態に陥るのは、こういう決め方をした生徒に多いですし、先入観で対象から外した大学にしても、もしかしたら自分に合っているかもしれません。もし気になるようであれば、「百聞は一見にしかず」で、オープンキャンパスに参加したり、参加しないまでも、実際に大学に足を運ぶなどして、自分に合う雰囲気なのかどうかを自分の目で確かめてみるといいと思います。オープンキャンパスの日以外でも、入試課(大学によっては広報課、入試広報課など呼び方は異なります)に行けば、校内を案内してくれたり質問に答えてもらえたりすると思います。受験すると決めるのは、それからでも遅くはありません。

9.学習環境・施設や設備の充実度

4年間学ぶ場ですので、特に理系の受験生にとっては、これらの充実度は大学選びの大きな要素になると思います。ただ、知名度や難易度が高い大学ほど充実度も高いとは一概に言えません。例えば国公立大は、学費こそ私大ほど高くはないものの、「伝統校」だからと言えば聞こえがいいですが、東大や京大などの一部の例外を除き、施設や設備が古いなど、充実度が高いとは言えないところも少なくありません。一方で私大の場合は、充実しているところとそうでないところとの差が大きいのが現状です。また、周りに何もないような郊外にキャンパスがある代わりに、広くて充実しているところもありますし、交通の便の良い大都市の中心地にある反面、狭い上に充実度が弱いところもあります。さらに言えば、理系の場合、「○○大学理工学部」といった総合大学と、「○○工科大」といった単科大学では環境が異なります。単科大学の方が、大学側が資産を集中投下できる分、充実度が期待できる半面、総合大学では、あらゆる立場の学生が幅広く所属している分、いろいろな刺激があり、むしろ学習環境が整っているという見方もできます。これらの良し悪しは、やはり自分自身でないとわかりません。この条件を重視する方は、どんな形であれ、一度大学に直接行って確かめてくることをおすすめします。

10.就職の実績や指導、キャリアセンターの充実度

これはここ数年ずっと言われていることです。そのため、近年では従来の「就職課」という呼び名を「キャリアセンター」と一新し、学生1人1人がが高い目的意識を持って人生観や職業観を養い、的確な進路や職業の選択ができるようにサポートするという、従来の就職課以上の役割を果たしている大学が増えています。具体的には、就職斡旋のほか、就職についての必修講座を主導したり、進路・就職相談の実施、履歴書の書き方や面接の受け方などのさまざまな就職支援など、大学によってはかなりきめ細かく支援しています。これらをふまえて就職率の良い・就職に有利な大学を選ぶ場合、従来通りに有利になりそうな有名・難関大に入ることだけでなく、知名度・難易度では劣る代わりに、上記のようなキャリアセンターによる就職指導を徹底している大学を選ぶという考え方もあります。上位志望校を決める場合は、前者の考え方で選ぶとは思いますが、滑り止め校を含めた併願校を決める際には、後者のような、どの大学が就活への面倒見が良いかという視点も無視できません。むしろ、わが子をフリーターやニートにさせないようにと、保護者の方のほうが興味がある場合すらあるのです。

11.入試日程

これを重視するのは、タイミング的には「最終段階」ですし、国公立よりは私立についてということになるでしょう。実際、最初から日程まで考えて決めようとしたら、決まるものも決まりません。各大学の資料を確認すれば、早い段階でも日程はわかるとは思いますが、全大学の入試日程一覧が出回るのは秋以降です。ですので、それまでにだいたいの受験予定校の候補を決めておき、日程一覧が出たところで日程が重なっていたり、一通り受験しようとすると3日以上連続してしまったりした場合に調整する、という流れでいいと思います。

12.入試科目・配点(自分に有利か不利か)

これも重要です。確かに入試科目については、国公立の5教科と私立の3教科といった大きな違いから、英国や英数、3教科からの選択などによる2教科受験、漢文や小論文の有無、理科の科目数など、志望校を決める上で大きな位置を占めることになると思います。ただ、配点については、英語だけ配点が高いか3教科とも同じか、あるいは最高点の教科を倍の配点にするといったことで、どちらかというと、上位志望校より中下位の併願校を決める目安になるケースが多いでしょう。そのため、重視するのは日程同様、最終段階でもいいと思います。尚、入試科目で注意すべきは、第1志望校でのみ必要な教科がある場合(例:慶應大でのみ小論文がある)、それでもあえて受験するかどうかです。志望校を変えなければ、その分負担は大きくなりますし、途中で断念した場合、その科目のために費やした時間と労力が無駄になってしまうからです。第1志望校ですら大変ですので、第2志望校以下の大学のうちの1校でのみ必要な教科がある場合は、その大学を受験校から外すことをおすすめします。

13.学費

これは、どちらかというと保護者の方が気になる内容でしょう。ただ、保護者の方から金銭面を理由に国公立しかだめだと言われたり、自宅外通学をせざるを得ない地域の大学への受験・進学を反対されたり、医歯薬系への進学を断念せざるを得ない場合があるだけに、受験生にとっても大学選びに大きな影響があります。ですので、この点は特に保護者の方とよく相談し、了解を得ることが絶対条件です。


大学選びの情報源について

いかがでしょうか。だいたい志望校を決める上での条件は揃っていると思います。ただ、重要なのは、全ての条件を満たす大学はないということです。ですので、自分にとってどの条件なら目をつぶれるか、どの条件は譲れないのかの優先順位をつけた上で決めていただければと思います。尚、これらの条件に合った大学はどこなのか、どう調べていいかがわからない方のために、いくつか検索できるHPをご紹介いたします。よかったら参考にしてください。

            ●リクナビ: http://shingakunet.com/

            ●大学受験パスナビ: http://passnavi.evidus.com/

            ●ナレッジステーション: http://www.gakkou.net/daigaku/

            ●マイナビ進学: http://shingaku.mynavi.jp/

            ●逆引き大学辞典: http://www.gyakubiki.net/


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