私立大全学部入試について

全学部入試というのは、2006年度入試にて立教大学が初めて導入した、一部の大学が全学部一斉に行う入試のことです。全学部一斉に行うということは、どの学部を希望する受験生も同じ日に受験し、その結果で合否を判定します。今では立教のほか、中央大の4学部統一、東海大の理系10学部統一などを含め、有名大の多くで実施されています。ただ、ひとえに「全学部入試」といっても、「全学部統一入試」と「全学部日程入試」とがあり、厳密に言うと両者は異なりますので注意が必要です。「全学部統一入試」が複数の学部・学科を併願できるのに対し、「全学部日程入試」は、単に全学部の受験日が同じというだけで、複数の学部・学科を併願することはできないということです(ここでは、その違いによる特徴の差がない限りは、両者を含めて「全学部入試」とさせていただきます)。特に学内併願をご検討させている方は、十分ご確認ください。尚、「全学部統一日程」の場合は、「統一」が入っていますが、日程が統一されているという意味ですので、「全学部日程入試」のことです。

●全学部入試の特徴
1.一般入試と併せて同じ学部・学科を複数回受験できる
  今でこそ複線入試は多くの大学で普通に行われていますが、そもそも全学部入試を始めたのは、それまで一般入試
  を1度しか行わなかった上位校が多かっただけに、これらの大学でもう1回受験の機会が増えただけでもメリットが
  大きかったのです。

2.「全学部統一入試」の場合、1回の受験で複数の学部への出願ができる
  これが、ある意味最大の特徴と言ってもいいと思います。つまり、「全学部統一入試」の場合、1回の入試で、複数
  の学部を受験したことと同じようになるわけです。例えば、商学部か経営学部かのどちらかに行きたいとします。
  普通なら、それぞれのA・B日程を受験すると、計4回受験することになりますが、もし全学部統一入試を実施して
  いる大学であれば、「A日程×2学部+全学部=計3回」で済むのです。また、たとえ経営学部では不合格でも、商
  学部では合格ということがありえるのです。極端に言えば、5科目全部受験すれば、文・理系の学部にまたがっての
  出願が、理屈では可能です。もっとも、大学によっては、文・理系の学部にまたがっての出願を含め、併願できない
  学部の組み合わせのあるところもありますし、立教大は、開始当初は理学部以外を対象にしていました(2008年度
  からは理学部でも導入)。ただし「全学部日程」の場合は、ただ「全学部で同日一斉に入試を行う」というだけで、
  学部・学科の併願はできません。例えば明治大や中央大(4学部統一)などではできますが、現在の立教大や、法政
  大などではできません。繰り返しになりますが、お間違えのないようご確認ください。併願できるのは、同じ日に
  同じ問題で実施するため、同じ基準での合否判定ができるからです。

3.各学部の募集人員が少ない
  ある意味当然といえば当然です。実際、学部ごとに入試を実施しても、もよりの駅から校舎まで、受験者の行列が
  できてしまい、普通に歩けば10分程度の道のりでも30分くらいかかったり、校内は校内で、ほとんどの教室を使わ
  なくてはならないほどの受験生が集まり、休み時間には校内が人であふれ、トイレさえ苦労したりするほどです。
  これが、全学部の受験生が集まれば、とんでもないことになります。ですので、運営上の面からも、定員は少なく
  せざるを得ないでしょう(それでも全学部入試の日は、一般入試の日より込むようです)。あまりに定員が少なけ
  れば、その大学が第一志望校でない限り、他大の一般入試の日程と重なる場合は、やむなく敬遠されることがあり
  ますので、結果的に受験生の数も絞られるのです。それに、広くいろいろなタイプの学生を獲得したいという大学
  側の意図があるとはいえ、あくまでメインは一般入試ということなのでしょう。

4.全国各地の試験会場で行うことが多い
  幅広くいろいろな学生に受験してほしいわけですから、地方の学生でも受験しやすくするためということもあります。
  でもそれだけではなく、受験者数を事前に絞りこむわけにはいかない以上、受験会場を分散させることで、受験生
  全員が校舎に集中することによる混雑・混乱を避けるという目的もあるようです。


全学部入試へのよくある疑問

さて、これらをふまえると、少なくとも2つの疑問がわくと思います。つまり、「なぜA・B・C日程のような形式にしないのか」ということと、「本当に受けた方がいいのか、受けるメリットがあるのか」ということです。それでは順にみていきたいと思います。


●なぜ一般入試の回数を増やさず、全学部入試の形式をとるのか?

実際のところは、各大学に聞かないとわかりませんが、おそらく教えないか、うわべ上のことしか言わないと思います。ですが、予想できることは大きく分けて2つあります。


1.大学側の負担軽減のため
  これは、単純に学部ごとに1回ずつ日程を増やすと、それだけで問題作成や当日の運営、採点、合否判定会議などの
  負担が倍増します。実際、全学部入試を行う大学は、有名・難関大のほか、マンモス校でもある大学が多いのです。
  これなら、1回行うだけで、全学部とも1回ずつ入試日を増やしたことになるため、メリットが大きいのです。また、
  たとえ負担が倍増しても、その分受験料収入が増えると考えれば良さそうなものですが、入試日程をいつにしても、
  他大の日程と重なることで、思ったほどの志願者増につながるとは限りません。特に、その大学の受験生が併願する
  ことが予想される大学の日程と重なれば、負担を増やしてまで実施する意味があるのかと、大学側が考えても不思議
  はありません。

2.大学の地位やブランド維持のため
  これはちょっとうがった見方かもしれませんが、これ以上に大きな問題です。全学部入試を実施している大学の大半
  は有名・難関大ですが、これらの多くは、推薦・AO入試は実施しても、かつては一般入試は各学部1回ずつでした。
  これにより、世間からはいわば「入りにくい」、つまり偏差値の高い大学としての地位を築いてきたわけです。です
  ので、こうした大学が、もし他の大学のように「A・B・C日程」のような形式を採用し、安易に受験回数を増やしたら、
  今までより「入りやすい大学」になり、偏差値も下がることにもなりうるのです。入りやすくなったことで、たとえ
  「狙い目」として人気が出て、一時的に受験者数が増えたとしても、徐々に受験生がその大学に抱く価値観が下がり、
  大学として最も恐れることの1つである、「歩留まりが悪くなる(合格者の入学辞退が増える)」ことにつながりかね
  ない危険性があるのです。

  知名度・人気がある大学は、それ以外の大学よりも恵まれていることばかりだと思うかもしれませんが、ある程度の地位
  を確立した大学では、その地位やブランド、プライドを維持するためには、たとえ受験者・入学者を増やすためでも、
  簡単に日程を増やすなど、手段を選ばずに何でもかんでもやるわけにはいかないという、複雑な事情があることは想像
  できます。ちなみに、センター利用入試も採用している大学は、さらにもう1回チャンスがあることにはなりますが、
  有名・難関大のそれは、むしろ一般入試での方が合格の可能性が高いと言えるほど、ハードルがかなり高いため、たとえ
  採用しても、地位やブランドには影響はないと思われます。

  もっとも、最近ではこうした有名・難関大でも複線入試を行ったり、いろいろな形式の入試を多彩に行うところも増えて
  きました。また、この全学部入試は、今や多くの大学で採用されるほど普及していますので、それをふまえ、状況がさら
  に変わる可能性があることも付け加えておきます。


●本当に受けた方がいいのか、受けるメリットがあるのか?
定員が少なく競争が激しくなる分、倍率も高くなりますので、やはり一般入試で合格するより難しいと言わざるを得ません。実際、私の職場でも、複数の学部・学科に出願できる全学部統一入試ですら、合格する生徒はまれです。いても、そこ以上のレベルの大学を受ける生徒くらいです。ましてや、第一志望校の全学部入試で合格し、進学した生徒をまだ見たことがありません。とはいえ、たとえ合格は難しくても、受ける意味や価値がないわけではありません。繰り返しになりますが、そもそも最近まで1回しか受験のチャンスがなかった大学に、チャンスがもう1回増えた、それも、大学によっては複数の学部・学科に併願でき、1回の入試で複数の学部・学科の判定をしてもらえること自体は、十分大きなメリットです。そして、全学部入試は、一般入試より日程が早い傾向がありますので、一般入試を「本番」と位置づけ、それに向けての「練習」「試験慣れの機会」として受験することができれば、これもメリットになると思います。入試では何が起こるかわかりません。入念に計画を立てていても、本番では思わぬことが起きたりしますので、こうした機会があるに越したことはありません。


このように、一長一短ある全学部入試ですが、他大の入試日程などもふまえ、もし自分なりに受けるメリットを感じたのであれば、日程的に無理をしない程度に受けてみるのもいいと思います。また、当然ながら、受験しなければ絶対合格しません。でも、たとえハードルは高くても、受験すれば合格が不可能ではないということ、そして、志望校合格のための、数少ないチャンスの1つだということには変わりはないのだということを、ぜひ覚えておいてください。尚、形式は全学部入試でも、大学によって名称も(T日程など)選抜方法も違いますので、必ず募集要項で内容を確認してください。

inserted by FC2 system