学部・学科の選び方

受験勉強に取り組むにあたり、肝心の志望校は決まっているでしょうか? もっとも、既に第一志望校から滑り止めまで、おおまかでも受験校が一通り決まっているという方ばかりではないかもしれませんが、志望校の上位3校くらいは決まっているという方は多いでしょう。ただその一方で、全くの白紙の方から複数の学部・学科で迷っているなど、まだ学部・学科がはっきり決まらないという方もいらっしゃるでしょうし、中にはまだ文系か理系かすら決まらない、そもそも大学に行こうかどうか、短大や専門学校でもいいのではないか? といった迷いがある方もいらっしゃるかもしれません。

ただ私は、自分の将来についてのことですので、ギリギリまで悩んでもかまわないと思っています。安易に決めて、いざ入学したら「思っていたのと違った」と、大学から足が遠のいたり、場合によっては退学したりすることよりははるかにましだと思うからです。よくないのは、ただダラダラ考え、時間だけが過ぎていくことです。入試のおおまかな日程は毎年変わりませんので、それに間に合わせないと貴重な1年を棒に振りかねません。ですので、段階ごとに締切日を設け、それまでにおおまかな方向性を決めてほしいと思います。目安としては、少なくとも夏休み前までには上位志望校を決め、11月中には滑り止めを含めた受験校を決め、最終調整は遅くとも年内までに行うのがいいでしょう。

そこで、こうした流れをふまえて大学を選ぶにあたり、大学で何の勉強をするかを決めるべく、学部・学科の選び方についてご紹介していきたいと思いますが、まずは、そもそもなぜ大学に行くのか、その目的を明確にしていただきたいと思います。自分の将来を考える良いきっかけにしていただければ幸いです。


1.なぜ大学に行くのか?

ある程度志望校が決まっている方も、まずは原点に返り、ここから確認していきましょう。「何を今さら・・・」と思われるかもしれませんが、改めて考えてみてください。それは、常に目標を明確にすることで、気持ちがぶれたり、モチベーションが低下したりするのを防ぎ、継続して学習できるようにするためです。この重要さを知っていただくため、例えば英会話スクールのスタッフになったつもりで考えてみてください。そこへ、以下のような理由で入学したいと相談に来た人がいたとします。大きく分けると、以下のような二種類の人たちです。

?「将来留学したいので、まずは最低限の英語力をつけたい」
 「将来通訳など、英語力を生かす仕事に就きたい」
 「TOEICで800点以下だと、海外転勤や新規プロジェクトなどの大きな仕事のチャンスをゲットできないため、
  出世もできないし給料も上がらないから、何としてもTOEICで800点以上取りたい」

?「もし、外国人に道を聞かれた時に、英語で答えられたらかっこいい!」
 「外国人の彼氏・彼女がほしい」
 「とにかく、英語が話せるのって何だかあこがれる」

果たして、どちらの層の人たちが、継続して学習でき、英語も上達すると感じるでしょうか?

 ・・・答えるまでもないですよね。

どんなことにでも言えますが、継続して何かをやるというのは本当に難しいのです。明確な目標を持っている人でさえ、何か別のことで忙しかったり、どうも気分が乗らなかったり、友人や先輩などの誘惑に負けたりして途中であきらめたり、あきらめないまでも、長きにわたって中断したりしてしまうことがあります。ましてや、目標があいまいだとなおさらです。また、これは部活にも言えることです。どんなにがんばっているつもりでも、上達している実感がない、レギュラーになれない・・・もしそんな状況が続けば、だんだん自分がみじめになり、たとえ好きで始めたことでも、途中でやめたくなるかもしれません。そんな気持ちを抱えたままでは、継続して練習するのはとても大変です。それでもくじけずに続けるには、例えば野球なら「何が何でもレギュラーを取って甲子園に行くんだ!」といった強い意志と明確な目標が必要なのです。「参加することに意義がある」「1回戦でも突破できれば上等」といった目標では、楽しむだけならともかく、そうでなければ、他のチームのように一生懸命練習を続けることは難しいですし、ましてや、本気で甲子園を目指目標を持つ部員の多いチームに勝つことはなお困難でしょう。

そして、これは受験勉強も同様です。志望校や、勉強したいこと、将来就きたい職業などがはっきりしていないと、「今は若さとノリと勢いで何でもできる、人生で一番楽しい時期のはずなのに、何で多くを犠牲にしてまで、こんな暗記ばかりで、将来役に立つかどうかわからない受験勉強をし続けなければいけないんだろう?」などと考えてしまい、勉強が手につかなくなってしまいます。本来なら、自分の人生を大きく左右することに挑戦するわけですから、ある程度のことは犠牲にしてでも取り組む価値があるはずです。そして、そう感じたからこそ「大学受験に挑戦しよう」「大変だけど受験勉強をがんばろう」と心に決めたはずです。また、多感な10代後半という、若さとノリと勢いで何でもできる時期だからこそ、いろいろな知識を吸収できるので、受験勉強をするには絶好のタイミングだとも言えます。これらを再確認する意味でも、改めて「何のために大学に行くのか」「なぜ大学に行こうと決めたのか」を自問自答してほしいのです。

一番わかりやすいのは、志望する学部と将来就きたい職業とが直結している場合です。例えば医師や看護師になりたいから医学部・看護学部、教員や保育士になりたいから教育学部、薬剤師になりたいから薬学部、などです。また、直結ではないものも、就きたい職業から考えて、所属した方が有利な学部が決められる場合も同様です。例えば、高校の理科教師になりたいから理学部、公務員になりたいから法学部、英語を生かした仕事がしたいから外国語学部、家業を継ぐから経営学部、などです。これらの場合、必然的に大学に行く理由がはっきりしていますので、特に問題はありません。しいて言えば、専門的な勉強や研究はもちろんですが、例えば「どんな教員になりたいのか」「英語をどう生かしたいのか」など、自分なりのスタンスをどう決めるかで、大学生活をどう送るか、専門以外のどんな勉強をするのかが決まってきます。そして、その積み重ねが「自分自身の人間的な魅力や器量」につながっていくのです。そうしたことまで考えて大学選びができれば、この先どんな誘惑があろうとも、打ち勝つだけの精神力が自然と身に付くと思います。

問題は、「ただ何となく行きたい」「周りの人たちが行くから」「親が行けと言うから」「将来を考えると大学くらいは行っておかないと」など、漠然とした理由しかない方々です。確かに高卒と大卒では、できる仕事の範囲や生涯年収などの差は大きいですし、大学を出ているだけで、周りの人からの印象もいいでしょう。逆に、周りの人たちが行くのに自分だけが行かないのは、かっこつかないと考えてしまうでしょう。また、大学を出ていないことで、今後もことあるごとに「だからあの時大学に行っておけば・・・」などと、親子喧嘩をするのもいやでしょう。でも、それだけの理由では、この1年を乗り切るだけのパワーとモチベーションの維持は難しいと思います。近い将来の「ガス欠」が目に見えているからこそ、「なぜ自分は大学に行くのか」について見つめ直してほしいのです。

尚、就職の面で補足しますと、確かに高卒や専門学校卒よりは、大卒の方が有利です。ただ、使い古された表現ですが、大卒という学歴は、大手企業に就職し、高収入を得られ、やりがいのある仕事が得られ、安心・安定した人生を送るための「パスポート」とは限りません。最近ではむしろ、大卒の中でも、コミュニケーション能力や協調性、発信力、創造力など、学歴だけでは判断できない、その人その人が持っている、社会人として必要な能力を持っていて、かつそれらを仕事に活かし、結果を出している人たちが高収入や安定した生活を得ることができると言えるのです。つまり、大卒という学歴だけではだめなのです。「大卒」ではなく、「自分自身」がパスポートだ、ぐらいの意識のもとで、大学に行く意義を考えてほしいと思います。


2.はじめての学部・学科選び − まだ白紙の方へ

なぜ大学に行くのかを確認したら、次は学部・学科選びです。1でお話しました通り、志望する学部と将来就きたい職業とが直結している場合や、就きたい職業から考えて、所属した方が有利な学部がわかる場合は決めやすいのですが、問題は、現時点ではまだはっきり決まっていない場合です。この場合も大きく2つのケースに分けられます。

?将来のことも学部も全く決まっていない。
 (「大学に行きたい」ということだけしか決まっていない。)

?将来の方向性はほぼ決まっているが、学部をどこにするか迷っている。
 (例:一般企業に勤めたいが、経済と経営と商学部とで迷っている。)

ここでは?のケースを取り上げますが、このケースで一番困るのは、モチベーションの維持が大変なことです。漠然としているだけに、ちょっとでも誘惑があったり、わからない問題に連続してぶつかったりすると、そのもろさが表面化します。このタイプは、いくらこちらが何か手助けをしてあげようとしても、一筋縄にはいかないのです。最終的に決めるのは自分自身ですので、ひたすらヒントを出し続けることしかできないのです。

そこでまずは、具体的でなくてもかまいませんので、大学でどんな勉強をしたいのかを決めてください。おおまかに言えば、大学に行くからには、社会人になっても役に立つこと(実学)を勉強したいのか、せっかく大学4年間という、何を勉強しても誰にも文句を言われない、貴重な期間が与えられるのだから、社会で役に立つかではなく、自分のやりたいことをとことん追究したい(その結果として役に立てばもうけもの)ぐらいに思っているのか、ということです。

もし前者の方が自分の考えに近ければ、「きっかけ」「たたき台」として、文系の方ならまず経済学部、理系の方ならまず工学部(大学によっては理工学部)について調べることをおすすめします(そうした学部への進学をすすめているのではありませんので、誤解のないように)。その上で、しっくりくればさらに深く調べ、もし「何かが違う」と感じられたならば、なぜそう感じたのか、また、それならどの分野なら「近い」と感じるのかを追求してみてください。すぐには結論が出ないと思いますので、勉強の合間ごとにやってみてください。

もし後者の方が自分の考えに近ければ、自分の趣味や興味のあることなど、思いつくままにかたっぱしから挙げてみてください。その際、必ず紙に書いてください。頭の中で挙げても混乱し、かえって漠然としてしまいます。日本の歴史、海外旅行、昆虫採集、日本の古典、英国文学、化学の実験、野球、インターネット、・・・何でも結構です。とにかく「もうこれ以上は思いつかない」という状態になるまでどんどん挙げてください。そうしたら、これらについて、

A.深く研究してみたいもの
B.大学でこれらをテーマにした講義があったら受講してみたいもの
C.とりあえずは趣味程度に留めておけば十分のもの

のどれにあてはまるか分類してみてください。「○・△・×」などの記号で区別するといいと思います。それが終わったら、改めてこれらを書いた紙を眺めてみて下さい。○や△がついた分野に、何か共通点が見えないでしょうか? もし見えたとしたら、その分野の勉強ができる学部・学科から調べてみてください。もし、あまりはっきりとは見えない場合は、絞りきれていないだけかもしれませんので、当面は、複数の分野について同時進行で調べ、その感触の差を確かめてみてください。全く見えない場合は、まだ興味関心があるものを全て出し尽くしていない可能性があります。引き続きどんどん挙げてみてください。

これは、「自分を知る」という意味で、とても大事なことです。特にAOや推薦入試を考えている場合、志望理由書などで必ず書かされる内容です。これも立派な受験対策だと思って考えてみてください。

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