そもそも予備校に通うべきか?

現在予備校に通っていますか? 通っている方、いない方、通おうと思っていても、どの予備校にすればいいか検討中、という方など、いろいろな方がいらっしゃると思います。そこで、まずはそもそも予備校に通ったほうがいいのかどうかについての話からしたいと思います。既に通っている方にとっては関係ないと思われるかもしれません。でも、そういう方にとっては、なぜ通うことにしたのかの原点に返り、その上で、どうすれば理想的な活用ができるかを、改めて考えるきっかけにしていただければと思います。

結論から言えば、やはり通った方がいいと思います。もちろん立場上、私の口から「予備校なんか行く必要ない」と言うわけにはいきません。自分の仕事を否定することになるからです。でも私は、立場上そう言いたいだけではありません。私が受験生だった時の経験と、今までいろいろな生徒を見てきた上でそう思うのです。具体的な理由は以下の3つです。

1.独学よりプロの指導者に教わる方が上達がはやく、効率が良い。

例えば、野球やサッカーなどのスポーツ、ピアノなどの楽器、その他語学など何でもかまいませんが、もしその道のプロを目指したい、あるいはそのレベルにまで上達したいと思ったらどうするでしょうか? おそらく、クラブチームに入ったり、習いに行ったりするなどして、有能な指導者のもとで指導を受けようとすると思います。おそらく、本気でプロ野球選手を目指している人が、元プロ野球選手の著書を読み、その野球理論を効率よく覚え、日々筋トレやランニングを欠かさないようにすれば、あえてどこかの野球チームに所属し、コーチから指導を受けなくても、バッティングセンターに通ったり、的に向かってピッチング練習をしたりするなど、自分なりのやり方で十分上達できると思うでしょうか。

同じように、ピアニスト志望の人が、誰にも習わず、映像教材でやってたらどうでしょうか? さらに、英語を生かした仕事をしたいという人が、HHKのラジオ講座や通信講座だけで英語をマスターしようとしていたらどうでしょうか? そもそもこういう人が実際に大勢いるでしょうか? おそらくほとんどいないと思います。それと同じ理由で、独学より、予備校に通って講師などプロの指導者に教わる方が、上達がはやく、効率が良く、目標である大学合格にもつながりやすい、ということなのです。

もちろん才能がある場合や、諸事情により、独学でやらざるを得なかったため、それこそ血のにじむような努力を人一倍した結果、その道のプロにまでなった人もいますし、東大や早慶に合格した方もいます。本当にすごい方だと心から思います。そういう意味では、独学を頭から否定するつもりはありません。でもここで申し上げたいのは、特別な事情がない限り、独学は、目標を達成するための手段としてはやはり遠回りだということです。


2.勉強のみに専念できる環境を確保できる(勉強への強制力も働く)。

まずはご自宅の勉強部屋を、改めて見回してみてください。現在お部屋にいない方は、部屋のようすを思い浮かべてみてください。果たして勉強に専念できる部屋と言えるでしょうか? テレビ、ゲーム、マンガ、雑誌、携帯電話、ツイッター、MP3、好きな芸能人のポスター、部活の道具、趣味に関するもの、ベッド(勉強中でも寝そべることが可能)・・・。自分の部屋には、これらのいわば「誘惑物」が1つもない、という方はほとんどいないと思います。

もっとも、日常生活をしている部屋なので、これらはあって当然です。でも、ここで毎日長時間勉強をすることを考えると、よほど意志の強い人でないと、これらの誘惑に負けてしまいます。第一志望の大学、特に難関大学に合格するためには、誘惑に打ち勝つだけの精神力は必要ですが、同じことなら、誘惑に打ち勝つより、誘惑物自体がない環境に身をおく方が楽です。その点、予備校には誘惑物はないはずですので、勉強しかすることがない、というわけです。

また、こうした環境に身を置くもう1つのメリットは、勉強への「強制力」が働くということです。勉強しかすることがなければ、さすがに勉強するでしょう。そして、授業が「毎週○曜日の△時から」あれば、その日は「△時からの授業に間に合うように予備校に行かなくては!」という「強制力」が働きますし、さらに、「前日までには予習をしておかなくては!」「習ったことを忘れないうちに、次回の授業までには復習しておかなくては!」といった「強制力」も働くのです。

人間にとって、継続することほど難しいことはありません。だからこそ、「皆勤賞」「この道一筋30年」「創業100周年」「4000試合連続出場」といったことに、尊敬の念を抱くのだと思います。受験にしても、たとえ目標が明確でも、継続して勉強することは本当に難しいのです。特に苦手科目は、独学だと後回しにしがちです。でも、予備校に通っていれば、少なくとも週1回は、授業及びその予復習で最低限のことはこなすことになります。もちろん後回しにしないようにする必要はありますが、「強制力」があるからこそ、最悪な事態をまぬがれることにはなると思うのです。

ちなみに、勉強する場所としては、他に高校(教室・図書室など)、図書館、喫茶店、ファミレス、電車の中などがありますが、どれも長時間勉強に専念できる環境とは言い切れません。自分の部屋よりはましかもしれませんが、例えば高校の図書室や公共の図書館には、勉強に直接関係ない本や雑誌もあるため、人によっては気が散ってしまい、結局勉強以外の時間の方が長くなることがよくあります。何より、自分が利用したい時にいつでも開いているとは限りません。土日祝日は休みですし、夕方には閉館です。また、喫茶店、ファミレス、電車の中などにしても、暗記物などで「細切れ時間」を有効に使うのにはもってこいの場所ですが、本格的な勉強をする環境だとは言えません。それに最近では、店内での勉強をお断りするところも多く、受験生にとってはやりづらくなっています。

その点予備校なら、授業のある時間は授業を受け、それ以外の時間は自習室や空き教室などを利用して勉強をするなど、勉強だけをする、勉強しかすることがない環境を確保するのには最適なのです。

3.がんばっている他の生徒を見て啓発されるなどいい刺激になる。
  (井の中の蛙にならずにすむ。)


予備校に通わず、独学で勉強する人が陥りやすいのは、「ひとりよがり」の勉強になることです。一応、自分なりに考えて勉強しているつもりでも、それが本当に成績の上がる、効率の良いやり方なのかどうかは、なかなか自分だけでは判断しづらいのです。また、かける時間が全てではありませんが、自分が自習室に入った時点で、既に多くの人が勉強していたとしたら、自分なりに勉強をしたと思って「今日はここまで」と、その日の勉強を終えようとしても、周りの人たちがまだ勉強を続けていたらどう思うでしょうか? つまり、自分より早く来て勉強し、自分よりも遅くまで勉強をしている人たちの存在を目の当たりにするのです。普通なら「自分なりにやったつもりなのに、この人たちは自分以上のことをやっている。近い将来、この人たちと勝負することを考えると、このままじゃまずいな。」とあせりの気持ちが高まります。そこで「・・・もう少し勉強しよう。」となるかもしれません。

また、授業を受けていて、「周りの席の人が明らかに自分よりやっている、予習の段階で明らかに自分よりわかっている、自分は予習だけで時間がかかり、授業についていくのがやっとなのに・・・」と感じたらどうでしょうか? 「この人たち以上に、質・量ともにしっかりこなさないと、とてもじゃないけど合格は遠い」という危機感を覚えることでしょう。

つらいかもしれませんが、でもこれはとても重要なことです。自分なりにやっているつもりでも、それ以上のことを(傍目からはさも普通に)こなしている人が実際にいることに気づき、「自分も現状に満足せず、さらなる努力をしなくてはならない」という気持ちになれるのは、予備校ならではです。この点は、独学ではどうしても限界があります。

もっとも、高校生なら、高校の教室内で同じことを感じることはあるかもしれません。特に、授業中に当てられることもあるでしょうから、もし自分ができなかった・答えられなかった問題を、他のクラスメートがいとも簡単に答えたら・・・また、定期テストで自分よりいい点数の人がたくさんいたら・・・やはりあせるでしょうし、危機感を持つと思います。

でも、根本的に違うのは、クラスメートとは勉強面以外のつきあいもあり、気心が知れているので、それが悪い意味で危機感が緩和されてしまうことです。予備校は、ただ自分の合格だけを考えている生徒の集まりというだけで、気心が知れている相手ばかりではないですし、知らない人も多いでしょう。言わば、知らない人たちが、自分より勉強していると感じるからこそ、危機感も高まるのです。その結果、ひとりよがりの勉強で満足したり、「井の中の蛙」になったりしなくて済むのです。さらに、予備校内で自分で勝手にライバルを決めて、「その人より早く来てその人より遅くまで勉強しよう」ぐらいの気持ちでやれば、モチベーションが上がるでしょう。これが私の立場から考える、予備校で勉強する何よりの効果だと思うのです。ここで重要なのは、勉強時間の長さではなく、勉強に取り組む姿勢であり、こなした量だということです。

例えばAさんがBさんから刺激を受け、「私ももっと勉強しなくては!」と思って勉強をしたら、今度はそんなAさんを目の当たりにしたCさんや、今までAさんに影響を与えていたはずのBさんが逆に刺激を受け、「Aさんは今まで私より早く帰っていたのに、最近は私より早く来て、私より遅くまで勉強している。私も負けてはいられない!」と、さらに自分を高めようとする、といった啓発し合う雰囲気が予備校内にできるのです。この繰り返しが、第一志望校合格者を頻出する環境をつくるのです。この環境も予備校ならではです。そして、こうした気持ちを持っている人は、勉強を続けることが苦ではなくなります。むしろ快感になることでしょう。刺激を受けた生徒より成績が上がればなおさらです。

実際、私の職場でも、各自が勝手にライバルを作って啓発し合っていた生徒もいましたし、私自身も、仲間の職員たちとともに、そういう環境づくりのために力を注いできたつもりです。


以上が、私が第一志望校に合格したい方が、予備校に通った方がよいと考える主な理由です。まずはこれらを頭の片隅に入れた上で予備校をお選びいただき、入学後は、メリットを最大限に生かして勉強をしていただければと思います。

独学・自己流にこだわる前に・・・

さて、それではなぜ上記のような人は実際にはほとんどいないと思うのに、こと将来を決める上で非常に重要な大学受験については、あえて予備校に通わなくても(つまりプロの指導者に教わらなくても)いいのでは? と考える方がいるのでしょうか。もちろん通うかどうかは本人の自由です。それは十分承知しています。でも、通わないのはもったいないなぁ、と思うのは、通える範囲内に予備校自体がなく、通いたくても通えない場合を除くと、以下の理由に該当する方たちです。

? そもそも予備校自体が嫌いな方。

以前の私もそうでしたが、いわば「食わず嫌い」の場合もあります。「通わない」と決める前に、せめて多くの予備校で行われる、体験授業や各種講習などをまずは受講された上で考えてみてはいかがでしょうか。

? 部活との両立が困難な方。

この場合、単に通わないということだけではなく、部活を引退するまで通わないか、引退しても通わないかのケースに分かれます。いずれにしても、部活をやっている時に、コーチや顧問の先生の指導を受けずに練習したわけではないことや、一流選手には一流のコーチがついていることなどを思い出してもらえると、、勉強だけは独学でも大丈夫ということにはならないでしょう。そういう意味でもこのケースでは、ぜひ予備校を「使い倒す」つもりで取り組んでほしいと思います。

? 金銭面の事情がある方。

家庭の事情ですので、詳しく触れるのは控えますが、もし通いたい場合は、多くの予備校で特待生や奨学生(大学進学後まで支払いを延期できる制度)、教育ローンの斡旋、月謝制など、ご事情にあわせた制度がありますので、ご興味のある方は一度調べてみることをおすすめします。尚、この問題については、私のブログも併せてご覧ください。

  • <子育ての総仕上げ>〜現役予備校職員がすすめる! 大学資金をつくる貯金術〜


  • ? 進学校に通っていて、そのカリキュラムでせいいっぱいの方。

    進学校では、受験対策に力を入れるべく、かなりの量や質の課題が定期的に与えられるため、それだけで手一杯でとても予備校との両立は難しい、という人もいます。その気持ちはとてもよくわかります。ただ、その高校の指導のおかげで予備校に通わなくてもすむなら、私が言うのも変ですが、それはそれでかまわないと思います。高校の先生がいわば「受験のプロの指導者」の役割を果たしたことになるからです。問題は、そうとは限らない場合です。例えば、


    ・高校の先生の授業がわかりにくいため、たとえ熱心に補習や講習を実施しても、それらを当てにできないような場合。
    ・高校の先生が特に何もしないのに、実績やカリキュラム上の名目で「受験指導をしている」ことになっている場合。
    ・模試の結果表など、受験指導に必要な資料が手元に少ないのに、先生が本格的な指導をしているつもりでいるような場合。
    ・先生が過剰に自信を煽ってプライドをくすぐるため、生徒が本来の実力とかけ離れた難関大しか受けたくなくなる場合。

    などです。高校としては、「予備校なんかに通わなくても、実績のあるプロの教員による受験指導を年間を通じて行っているのだから、あとはそれをふまえて自分で復習・演習を繰り返し、ひたすら赤本を解きまくるだけで十分。先輩たちもそうだったから大丈夫。」という姿勢です。一応毎年、難関大の合格者を何人も出しているので、「自前の教育で十分実績を出している」という自負があるのと同時に、「予備校への嫌悪感」「日本の教育は塾・予備校がだめにしている」といった、「塾・予備校否定」の発想を持っているようです。でも実際は、そこの生徒の多くが予備校に通っているのに、そのことを知らないか、あるいは知らないふりをしているということもあります。実際、私たち予備校職員が近隣の高校にパンフレットを持ってご挨拶に行くと、模試を利用している大手の予備校でもない限り、上記に該当する高校ほどぶしつけな対応か、何かと理由をつけて会ってくれないのに、そこの生徒さんは結構通ってくれています。もっとも、入学のきっかけは高校経由ではなく、他の生徒さんからの紹介が大半で、口をそろえて「高校はあてにしていない」と言います。おそらく高校側は、まさかそこまでは知らないでしょう。だからこそ、露骨な態度をとるのです。

    また、次年度以降の入学者数を考えると、実績が欲しい高校では、滑り止めの大学に現役合格するより、浪人してでも難関大に合格してほしいのです。実績は、現役か浪人かではなく、その高校の卒業生が、最終的にどの大学に入学したかです。ですので、むやみに自信を煽り、滑り止め受験を「逃げだ!」と切り捨て、「日東駒専以下の大学に行っても意味はない」と言ってでも、気持ちを難関大に向けさせようとする高校もあります。もっとも、予備校にもそういう面があるものの、最近では、高校生が多いこともあり、むしろ現役合格させることを優先した進路指導をする傾向があるようです。

    もし?の理由で通いたくない方で、日々高校からの課題に負われる割に、それで本当に力が付いているのかが不安だという方や、高校の先生が「受験のプロの指導者」の役割を果たしきれていない、上記の4つの例のいずれかに該当するのでは? と感じた方は、きついかも知れませんが、予備校に通い、知識が体系的に理解できているか、どこが弱いのか、どうすればいいのか、自分に合った大学をどう決めればいいのか、などを確認すべく、受験のプロの指導を受けてほしいのです。

    ?(人にいろいろ言われるより)自己流にこだわりたい方。

    ?の理由はまだわからないでもありません。実は予備校に通ってほしいと私が心底思うのは、むしろ?です。例年、予備校の人気講師や塾・予備校のトップの方、さらに近年では東大・医学部生(卒)の人などが、それぞれの立場から大学受験についての本を出しています。ただ、東大・医学部生(卒)の受験本には、このタイプの生徒を後押しするかのように、「大学受験の勝ち組・成功者」の立場から、いかに要領よくやるかが書かれており、「時間と労力とお金とのムダなので、予備校にはむしろ通わない方がいい、通うならせめて単科生で」という趣旨の内容になっています。具体的にはこんな感じです。

    ・予習の段階で解けた問題なら、授業を受ける必要はない。
    ・予習に時間をかけるくらいなら、その分を復習に充てた方がいい。
    ・予備校の本科コースに入り、苦手科目以外の授業まで受けるのは、時間のムダなだけでなく、労力やお金もムダ。

    その上で、自分なりに編み出した、独学で合格する勉強法についてを著書で展開するのです。こうした著者らの共通点は、自分たちは天才でも優秀でもなく、いかにごく普通の生徒(むしろ劣等生)だったかを強調し、「そんな私でも、このやり方のおかげで東大に入れた」と主張していることです。書店で自分の本を手に取った方に、「彼らは成績がトップクラスで天才的な才能を持つ、私とはレベルが違いすぎる人だからできたことで、私には参考にはならない」と思われたくないからです。

    実際、こうした著者は、「進学校」と呼ばれる高校の中でも、特に全国に名を知られている、トップクラスの高校を出ている方がほとんどです。彼らは高3になるまでに、既に大学受験を強烈に意識した授業を受けてきているだけに、あえてわざわざ予備校に行ってまで、同じような授業を受けるのは無駄だ、と思うのも無理はありません。そういう高校の授業の進度や難易度、与えられる課題の質量共に、並大抵ではありません。ついていけたこと、そして何より、その高校に入れたことだけですばらしい実力の持ち主なのです。ですので、いくら著書で「ごく普通、むしろ成績では下位の生徒」と「けんそん」しても、やはり普通の人よりは頭が良かったのです。いくら「私は要領だけ」「このやり方だから、平凡な成績だった私でも東大に入れた」と言っても、要領と自己流だけで東大に行くのは誰にでも出来ることではありません。そして、要領よくこなすノウハウを編み出した時点で、既に普通の人以上の能力の持ち主なのです。

    確かに彼らが言うように、本当にごく普通の生徒だったかもしれません。「ちょっとやっただけですぐに覚えられ、しかも忘れず、それらを模試や他の問題にもすぐに生かせる」ような天才ではなかったからこそ、どうすればいいか真剣に考えたのだと思います。そして、「どうすれば限られた時間で効率よく勉強できるのかを追求し、そのやり方を編み出し、そのやり方で継続的に勉強し続けて、東大合格を勝ち取ることができた」という意味での天才だと思います。これらの著書を読んだ方全員が、同じやり方を試したとしても、全員が合格できるとは限らないからです。

    つまり、彼らにはベストの方法でも、万人にベストの方法とは限らない、誰もが予備校に通わない方が合格できるとは限らないのです。実際、「彼らのすすめる方法で合格を目指す」という大義名分で予備校に来なくなった人で、うまくいった人はいません。それは、予復習が追いつかない、授業についていけないなど、現実逃避がきっかけになっているため、結局その方法でも勉強しなかったり、受験本から、自分に都合のいい内容や、うわべだけをまねしたりする人が多いのです。当然の結果とはいえ、気持ちはわからないでもありません。

    別に、こうした内容を否定するつもりはありません。いろんな考え方がありますし、要領よくこなすことや、予習に時間をかけすぎないことなどは、私も職場で生徒にすすめています。何より彼らは、予備校にほとんど通わず、著書で紹介している方法で本当に東大に合格しています。結果を出している以上、手法をいくら批判しても「負け惜しみ」の粋を出ないでしょう。

    でも、予備校には通わず、これらの受験本のやり方を信じて、その通りに勉強したいのであれば、その前に認識してほしいことがあります。それは、そうした著者は、大学受験経験者全員の人数から考えると、「極めて例外的な人」だということです。多くの受験生が予備校に通うという現実に反し、予備校に通わず、自己流の受験術で東大に合格したからこそ、そのやり方の正しさを確信し、「東大への必勝法」として、本でその「武勇伝」を披露したくなり、出版社側も「これはおもしろい、売れる!」と判断して、出版に踏み切っているのです。独学でその道のプロにまでなった人も同じです。珍しいからこそ注目され、有名になるのです。何より大変なのは、彼らの言う「最良の方法」で、予備校に通わず勉強し続けることです。人間にとって、何かを継続するのは本当に難しいのです。だからこそ、自主勉強の際に、そうした勉強法で参考になることは大いに参考にした上で、予備校には通った方がいいと思うのです。

    もちろん、どうしても予備校に通わずにそのやり方を通すのであれば、それも1つの選択肢です。決めるのは自分自身です。でも、もしそのやり方はだめだった、やってみたけど合わなかった、となった時点から「違うやり方でやろう」と奮起しても、どこまでできるかわかりません。今でこそAOなど、多様な形式の入試が1年の間に何回か行われていますが、どの時点で合格しても、入学は来年の4月からという意味では、チャンスは1年に1回しかありません。将来のことを考えますと、大学受験だけで何年もチャレンジするわけにはいかないので、よほどやり方が自分自身に合っていて、続ける自信があるならともかく、そうでなければまずは予備校に通い、「定期的に授業を受け、その予復習をする」というサイクルを形成することで、定期的に勉強する機会(学習基盤)をつくり、さらにそれをふまえて自主勉強をする(英文法を強化すべく、基礎問題集を1ヶ月以内でこなす、1日30分日本史の用語を覚える時間をつくる等)ことをおすすめします。その上で、自主勉強の際に、受験本で紹介していたやり方で使えそうなものがあれば、そのやり方でやってみればいいので す。それを続けているうちに、自分なりの学習法が確立されるでしょうし、されなければ予備校の職員や講師に相談すればいいのです。

    かくいう私も好奇心が旺盛ですし、仕事柄関心がありますので、上記の受験本を何冊か読みましたし、いわゆる「裏技」「効率的な『秘』勉強法」といったものにも興味があります。でも一概に言って、裏技や徹底的に効率性を追求するやり方は、ある程度の基礎ができてはじめて生かされるもので、基礎も固めないうちに安易に裏技に走ったり、ある程度量をこなして定着させる前から効率性ばかりにこだわっていると、足元をすくわれることがあります。私の勤務先での経験でも、そういうタイプの学生が第一希望に合格するのを見た記憶がありません。

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