「合格」を引き寄せる赤本の活用法

日々の勉強の積み重ねにより、果たして本当に実力がついているのか、そしてその実力を大学入試本番で出し切れるかどうかを客観的な数字上で判断するには、模試を積極的に活用することです。ただ、模試はあくまで模試ですので、全てのニーズを網羅できるわけではありません。大学入試は、大学や学部ごとに問題形式や出題傾向、頻出分野が大きく異なる以上、最終的には、受験校ごとに過去に出題された問題を解き、出題傾向を掴み、その手応えや正答率などをふまえ、受験校にあわせた勉強をする必要があります。もっとも、大学ごとの出題傾向をふまえた「オープン模試」(「●●大学模試」)なら出題傾向とマッチしていますが、全ての大学のオープン模試があるわけではありません。そこで必要になってくるのが、過去数年分の大学・学部ごとの過去問題集であり、その中で最も有名なのが、教学社が発行している「大学入試シリーズ」で、表紙の色から通称「赤本」と呼ばれています。これで過去に実際に出題された問題を解くことにより、不足している力や弱い分野など、入試本番までの課題が浮き彫りになります。そういう意味では、赤本を通じた過去問対策は、受験勉強の総仕上げとして欠かすことができない存在です。

ところが、普段から受験生と接していますと、ただやみくもに使っていたり、解く自信がなくてギリギリまで手をつけないなど、必ずしも有効的に活用している受験生ばかりではありません。せっかくの機会ですから、模試も赤本も二次・三次活用することで、合格につなげてほしいと思います。そこで、事前準備や使い始める際に注意する点、さらにその後の生かし方まで、あらゆる角度からの赤本の活用法についてのご提案をしたいと思います。

1.まずは開始日を決めることから始める

これは真っ先に決めてください。ただし「だいたい11月ごろから」「(いつ終わるかはやってみないとわからないけど)この問題集が終わってから」といったあいまいな決め方ではなく、例えば「10/1から」というように、なるべく具体的に決めてください。これが決まらないと、科目ごとに、その時までに何をすべきかがはっきりしません。具体的に決めているからこそ、「10月から赤本をこなせるよう、今月中にはこの問題集を仕上げておかないと(あるいは、苦手なこの単元はマスターしておかないと)」という意識のもとに、勉強することができるのです。いつにするかは個人差がありますので、絶対10/1からでなくてもかまいません。また、10/1からやる予定でも、それまでにやるべき課題が終わりそうもなければ、決めた日から強引に赤本を始める必要はありませんし、開始予定日を延長しても全然かまいません。始める日を意識して勉強することに意義があるからです。ただ、その代わり、改めて目標日を明確に設定し直してください。「10/1は無理だけどなるべく早く」では、決めないのと一緒ですので、結局ズルズル先延ばしになりかねません。

2.早くやりすぎても遅くやりすぎても効果薄だと認識する

1にも関連することですが、赤本開始日を決めるにあたり、赤本は、早くやりすぎても遅くやりすぎても効果は薄いのだと認識していただければと思います。例えば、東大や早稲田などの難関大を志望しているものの、新学期〜夏休みくらいまでの段階ではそのレベルには遠く及ばない、といった生徒に多いのは、基礎もまだ固まっていないと思われるこうした時期から、東大なり早稲田の赤本を解き始めるケースです。これに該当する生徒の考えとしては、「今のままでは合格は厳しいし、赤本をあまり遅い時期からやり始めると、難関大で出題されるような問題に対処する時間がないので、今のうちから難しい問題に慣れておこう。どんなに難しくても、早いうちからやれば慣れるし、わかるようになるだろう。少なくとも問題集をあれこれやるよりは早いだろう」といったところだと思います。


でも、この考え方には大きな落とし穴があります。それは、「基礎を固め、傾向別対策をやった上で赤本をやらないと、何度やっても同じ」だということです。例えば、第一志望校では、英語の要約の問題が毎年出ているとします。だとしたら、どこかで要約問題の対策をやっておかないと、いくら過去数年分の要約問題を繰り返しやったとしても、それだけでは点数がとれるようになりません。また、たとえ典型的な「文法+読解問題」の出題パターンだとしても、基礎を固めておかなければ、何度やっても正答率は上がりませんし、違う大学や年度の問題をやっても、似たような問題にあたるたびに引っかかってしまうのです。

確かに、同じ大学の赤本を、何度も何度も繰り返せばできるようにはなるでしょう。でもそれは、何となく解答なり正解の選択肢の記号を覚えているにすぎないことが多く、模試や他大の赤本で、出題形式は違っても問われている内容はほぼ同じ、といった問題が出た時に解けるとは限りません。赤本を何度も繰り返すことはとても大切ですし、いずれはそれくらいやってほしいのですが、それ以上に、基礎を固めるための問題集を何度も繰り返し解いてから赤本を解くことの方がはるかに重要です。その過程を経てからでないと、何度解いても結果は同じなのです。

一方で、難関大を強く志望しているものの、現時点ではそのレベルには遠く及ばない生徒に多いもう1つのケースは、先のケースとは逆で、なかなか赤本に手がつけられないケースです。当人の気持ちとしては、「まだ基礎が完全に固まっていないし、この単元もまだ苦手のままだし、夏休みまでに終わる予定だった問題集もまだ終わっていないし、これでは赤本をやっても結果は見えているので、これらをちゃんと終わらせてから始めよう」ということなのでしょう。この考え方自体が間違っているとは思いませんが、結局この気持ちを引きずってしまい、いつになっても赤本が始められないまま、ズルズルと時間だけが過ぎていくことが多いのです。これでは、たとえ最終的には赤本を始めたとしても、その結果をふまえた傾向別対策の時間がとれなくなりますし、そもそも赤本を解く時間自体が限られてしまい、本番に間に合わなくなってしまうのです。だからこそ、いつから赤本を始めるかを具体的に決めた上で、その時までに何をやっておくべきか、そのためにはどんなペースでやれば予定通りにこなせるのかを、逆算して事前に確認してほしいのです。

3.全ての赤本を高校や予備校で借りず、自分で買うべき赤本を決め、
  早めに入手する

合格するためには赤本は欠かせませんが、だからといって全ての受験校の赤本を買う必要はありません。多くの高校の進路室には、昨年度以前のものも含め、赤本が豊富に揃っていると思いますし、また、余程小規模なところでもない限り、赤本の品揃えに乏しい予備校はさすがに少ないと思います。ですので、これらをうまく有効に活用していただきたいところですが、でもだからといって、「高校や予備校にけっこう揃っているので、赤本はわざわざ買う必要がない」というわけでもありません。そこで、合格を目指す一受験生として、ぜひ買っていただきたい赤本は、以下の3種類です。


●予備校や高校にない赤本
これは言うまでもありません。いくら予備校や高校といえど、赤本という赤本を全て揃えているとは限りません。例えば札幌の予備校には、東北や関東の大学の赤本まではあっても、四国や九州の大学の赤本まで一様に取り揃えてはいないでしょう。その地域の大学を受験する人が極端に少ないようであれば、さすがに購入を控えるはずだからです。そこで、もし親元を離れ、実家から遠く離れた地域の大学に行きたいのであれば、念のため、予備校や高校にその大学の赤本があるかを確認し、なければ取り寄せてでも早めに入手してください。

●主要科目のセンター試験の赤本
これは、文型なら英・国・地公、理系なら英・数・理の赤本です。理由は3つあります。1つ目は値段が安いことです。だいたい1冊900円くらいで、多くの大学の赤本を1冊買うお金で、センターの赤本が2冊は買えるのですからお得です。2つ目は利便性です。センター試験は、レベルが標準的で、比較的「素直に」出題されますので、いきなり上位志望校の赤本ばかりをやるよりも、国公立大を受験する方はもちろん、私大の一般入試やセンター利用入試を想定している方でも、本格的に赤本を始めるきっかけとして活用するのに適しています。しかも、初回から今年の1月まで、全ての回の問題が入っていますので、それだけでも十分買う価値があると思います。3つ目は、必ずしも自分の借りたいタイミングで借りられるとは限らないことです。例えばセンター試験を受験する方であれば、ごく一部の例外を除き、ほぼ全員英語を受験するはずです。ということは、本番が近くなると、センター英語の赤本を借りたいと思う生徒が増え、いわば「争奪戦」になります。これでは、いくら大手の予備校でも、希望者全員に待ち時間なしで貸し出すのは無理でしょう。そうすると、自分がやりたいタイミングで借りられる保障がないわけですから、完全に学習ペースを狂わされてしまいます。それなら買っておいた方が、こうした心配もなく自分のペースで進められますので、時間をお金で買うという、いわば「投資」をしたことになります。他科目についても、英語ほどではないにしても、同様のことが起こりうるため、主要科目くらいは購入しておいても損はないと思います。

●第3志望校分くらいまでの赤本
これにはもちろん、主要科目のセンター試験の赤本の購入をお勧めするのと同じ理由もありますが、それだけではありません。上位志望校の赤本を買い、それを自分の机の上に立て掛けると、ちょうど視線上に赤本の「背」の部分が見えますから、勉強中は志望校名が常に視線上にあることになります。つまり、目標を紙に書き、常に目にする場所に掲げることにより、日々気持ちを新たにでき、目標に向かってがんばれるのと同じ効果があることになります。勉強がはかどらなかったりやる気が出なかったりしても、視線上に志望校名があるわけですから、それを見るたびに「私はここに絶対合格するんだ! だからこそ必死でがんばるんだ!!」と再確認ができるのです。この効果は決してばかにはできません。一応受験生なので、みんなそれなりに勉強はやっているわけですから、そんな中から頭一つ抜け出すためには、いかに「志望校に絶対合格するんだ!」という気持ちを強く持ち続けられるかが、合否を左右する重要な要素になります。部活で考えると、「参加することに意義がある」程度の気持ちで練習している人と、「絶対に優勝するんだ!」と闘志をむきだしにして練習している人とでは、どちらの方が優勝する可能性が高いかというのと同じです。

4.やり始めるまでに、あらかじめ傾向がわかっていれば、やると決めた日
  までにある程度の対策をしておく。

赤本は、早くやりすぎると効果が薄いということは「2」で取り上げましたが、だいたいの傾向を知るために、問題を一通り見てみたり、1年分だけでも先行してやってみたりするのはいいと思います。国公立大志望の方なら、二次試験の問題の大半が記述式だという認識はあると思いますので、既に1学期から、人によっては高1、2年の頃からその傾向をつかみ、「近い将来こうした問題が解けるようにならなくてはならない」という意識のもとで勉強していることと思います。ですので特に心配はしていませんが、問題は私大志望者です。

ほとんどの方が、「私大入試=マーク式」というイメージを持っていると思いますが、大学によっては、一部の問題が記述式になっていたり、リスニングが別途課されたりすることがあります。でも、本格的に赤本を解いてみて初めてそのことに気づく、というのでは、対策が間に合わなくなる可能性があります。解いてみないと実感できない細かい傾向はともかく、例えば英語でリスニングがある、読解問題がとにかく長い、要約問題が出る、英作文がハード、あるいは日本史は大問ごとに1つは50字程度で書かせる問題が出る、といったことは、問題を見ただけで明らかにわかる傾向です。ですので、せめてそうした傾向をふまえた対策は、赤本を本格的に始めると決めた日よりも前からある程度はやっておいた方がいいと思います。そうでなければ、いつから赤本を始めても結果は見えていますし、何年分やっても同じです。部活で言えば、大会に臨むにあたり、まずは対戦相手の研究を行い、そこで見えてきた、相手の強さの秘密や、自分自身やチームの弱点及び課題をふまえた練習をするのと同じことです。

5.最初は「通し」でやらず、1大問ずつでもいいから少しずつこなす

いくら赤本をやり始める日を決めたとしても、初日からずっと赤本を、それも最初から最後の問題まで「通し」で解き続ける必要はないと思います。当面は、例えば「英語のこの読解問題だけ」「英語の読解問題以外をまとめて」「大問1の現代文の評論の問題だけ」などのように、1大問ずつでいいので、少しずつ部分部分でこなしていけばいいと思います。

部活の場合でも、例えば野球部で、紅白戦などの実践形式での練習をしたり、吹奏楽部で、全員で合わせて「通し」で演奏する練習をしたりするのは、試合や大会などの本番間近の時期だと思います。それまでは、野球ならランニングや筋トレ、素振り、打撃練習やノックなどを、ブラスバンドならチューニングや個人練習、パート練習などをするはずです。これは勉強でも同じです。これらの「通し」以前の練習が、いわば部分部分の赤本対策だと思っていただければと思います。最初から最後の問題まで「通し」でやるのは、もう少し後でも十分です。まずは出題傾向を知り、今の実力ならどのくらい解けるのかがわかればいいので、あせらず少しずつ慣らしてください。その代わり、少しでも本番を意識するために「英語の読解問題や現代文の1大問を20分で」「英語の読解問題以外をまとめて15分で」というように、たとえ部分部分でも制限時間を決め、時間を計って解いてください。その際、大問ごとの制限時間を全て足すと、全体の制限時間より少なくなるように設定してください。こうしたやり方での練習をやらないと、模試を受けても、制限時間内に解けるようにはなりません。

6.実際に解いてみて初めてわかった傾向があれば、わかった時点で、赤本と
  同時進行で傾向別対策も進める

上述の通り、見ただけで明らかにわかる、その大学独自の傾向については、事前に対策をしておく必要がありますが、実際に解いてみて新たにわかった場合は、赤本をただどんどん進めるだけではなく、同時進行で、その傾向についての対策も進めてください。

例えば、正誤問題が毎年出題されていることがわかり、やってみると間違いが多かったとします。そうしたら、赤本のペースを多少緩めてでも、正誤問題をどうこなすかを同時に考えるのです。そうしないと、今後も間違いが多いままです。この場合、例えば正誤問題集(なければ正誤問題が多く載っている問題集)を購入し、それを解く時間を学習時間に組み入れたり、予備校の講師に、正誤問題がよく出題される大学はどこなのかを聞き、その大学の赤本から正誤問題だけをピックアップして解いたりする、などの方法が考えられます。 これらをふまえ、「これだけやれば大丈夫だろう」と思えるめどが立つまでは、赤本と平行して集中的にこなすのです。そうすれば正答率は上がるはずですし、何より正誤問題への苦手意識は解消され(すぐにはされないまでも、少なくとも慣れるはずです)、やったことが実を結んだわけですから、一歩合格に近づいたような前向きな気持ちになれると思います。

尚、傾向別対策を集中してこなしているからといって、別に赤本を解くこと自体を中断する必要はありません。その大学の正誤問題以外の問題をやったり、別の大学や別の科目の赤本をこなしたりしていればいいのです。「同時進行で」というのは、そういう意味です。

7.科目によっては、早い時期からセンターの赤本は解き始める

たとえ赤本開始日をはっきり決めたとしても、科目によっては、その日以前から先行して赤本を始めてもかまいません。あくまで、本格的に始める日を決めることで、その日までに何をすべきかを考え、そこから逆算して勉強してほしいというのが本来の目的だからです。例えば得意科目で、開始予定日の2週間前にはある程度問題集も終わり、間違えた問題も何度か繰り返し、1学期や夏期講習のテキストやプリントの見直しもやったので、新たに問題集を買うよりも過去問に取り組みたい、ということであれば、その科目だけでも先行して始めてみましょう。他の科目の時間にはいつも通りに問題集をこなし、その科目の時間には、問題集の代わりに赤本をやる、というわけです。

尚、もしどの大学の赤本から始めようかと迷っている方は、まずはセンター試験の赤本から始めることをおすすめします。大学の赤本の場合、大学により傾向が異なり、それこそ「重箱の隅をつつくような問題」が含まれている可能性もありますが、センター試験なら比較的「素直に」出題されますので、自分は今どのくらいの実力なのかを試すにはちょうどいいと思います。これは、本格的に赤本を始める際にも同じことが言えます。上述の通り、もちろん上位志望校の傾向を早めに知っておく必要もありますが、始めるきっかけという意味では、センターの過去問からの方がやりやすいと思います。ぜひお試しください。ちなみに、私が今まで見てきた中では、先行して始める人が一番多いと感じている科目は現代文です。現代文については、志望校に限らず、いろいろな大学の問題に幅広く触れてみてもいいと思います。ただし、解説はあまり詳しくないため、それでは困る方は、解説が詳しい問題集を続けた方がいいでしょう。

8.必ず制限時間を決めて解く

問題集を解く際に、目標時間を決めている方がどのくらいいるでしょうか。おそらく、ほとんどの方は時間無制限でやっていると思います。でも、赤本を解く際には必ず制限時間を決め、その時間内で解く練習をしてください。それも、実際の制限時間より短めに、できれば制限時間マイナス10分(少なくともマイナス5分)くらいで設定してください。

言うまでもなく、入試本番では、制限時間内にどのくらい解けるかが問われます。ですので、時間無制限で解けたとしても、また、たとえ解説を読めば理解できる問題でも、似たような問題が問題集に出てきた時には解けたとしても、入試本番で、制限時間内にその解答を解答用紙上に再現できないのでは意味がありません。よく、模試のたびに、「もう少し時間があれば解けたのに」「解説を読めばわかった問題なので、今度出たら大丈夫だと思う」「あれに似た問題を前にやったことがあって、その時には解けたのに」・・・などと言う生徒がいます。でも、ある程度の受験生なら、時間さえあればもっと解けます。また、普段使っている問題集にしても、それが自分のレベルに合ったものであれば、解ける問題は多いと思いますし、たとえ解けない問題があったとしても、後で解説さえ読めば、それなりに理解はできるでしょう。


普段は時間制限がなく、多少の緊張感はあっても、模試の時ほどではないでしょうから、「時間に関係なく解けた」「解説を読めばわかった」「普段なら解ける」というのでは、まだ「実践力がついた」とは言えません。そもそも制限時間というのは、多くの受験生に、「もう少し時間があればもっと解けたのに」と思わせるような長さに設定してあるものです。大学入試は資格試験と違い、あくまで「落とすための試験」ですので、そのくらいの時間設定にしておかないと差がつかないのです。大学側にとっては、ほとんどの受験生が余裕を持っていつも通りに解けるのでは困るのです。そのため、当日の緊張感やあせりなどを想定し、勉強部屋や自習室など、普段の落ち着いた環境で赤本を解いても、入試本番に近い緊張感を味わえる ようにするためには、制限時間を短くするのが一番手っ取り早い方法です。「できれば制限時間マイナス10分」と申し上げたのは、見直しをする時間をあらかじめ確保しておく必要があるからです。もちろん早く解ければいいというわけではありませんが、そのくらいのつもりでやらないと、本番を想定した練習にはならないということをぜひご理解いただければと思います。これは、部活をやっていた方なら実感としてわかると思うのですが、いくら練習を何時間も何日もかけてやったとしても、それは実際の1試合分にもならないものなのです。だからこそ、本番以上にハードな練習をし続けるのです。

尚、「5」でもお話いたしましたが、英語の読解問題や現代文の1大問なら20分で、英語の読解問題以外ならまとめて15分で、というように、たとえ部分部分でも、制限時間は必ず決めた上で解いてください。

9.たまには普段と違う環境下でやると、本番に近い雰囲気が味わえる

「8」に関連して、厳しめの制限時間を設定すれば、勉強部屋や自習室など、普段の落ち着いた環境で赤本を解いても、入試本番に近い緊張感を味わうことができますが、さらに近い緊張感を味わえるようにするためには、普段とは違う環境下で赤本をやってみることです。

おすすめは、普段あまり使わない図書館です。例えば、普段利用しているのが、家の近所の図書館なら家から2番目に近い図書館を、学校の図書室なら学校の近くの図書館を、予備校の自習室なら予備校の近くの図書館を、市立図書館なら県立図書館などを利用するのです。たとえ静かで、ある程度の緊張感があったとしても、普段利用している場所であれば、やはり緊張感を持つにも限度があります。実際、自分のクラスの教室や、通っている予備校で受ける模試と、初めての会場で受ける模試とでは、受ける際の気分が全然違います。本番の入試では、皆さんにとって全く初めての会場・教室で受験するのですから、入試本番までにこうした環境下でやっておくと、精神的にも楽です。

ただし、頻繁に行くのでは意味がありません。わざわざ遠い図書館に行く時間や労力もさることながら、頻繁に行くなら普段の場所でいいからです。たまに行くから緊張感が味わえるのです。そして行く時は、解く予定の問題を科目ごとにあらかじめコピーして持参し、それを本番のつもりで制限時間内に解くようにすると、その分余計に模試を受けたような気分が味わえます。模試以外に、実戦形式の練習ができる絶好のチャンスですので、よかったら試してみてください。

10.志望校の他学部の赤本もこなすと効果的

例えば、志望学部が商学部だとします。そうすると、多くの生徒は、志望校の商学部の過去問だけをやろうとするのですが、それではもったいないです。買わなくてもかまいませんので、予備校や高校などで、志望大学の他学部の赤本を借りて、それらの問題にもぜひチャレンジしてみてください。例えば明治大学の商学部が第一志望だとしたら、後日で結構ですから、商学部だけでなく、政経・経営・法・文学部などの赤本にもチャレンジしてみましょう。これが効果的なのは、学部こそ違うものの、同じ大学の問題ですので、その大学全体としての方針をもとに作成しているはずだからです。そのため、たとえ問題作成担当者が違っても、結果的に似たような傾向になることがありえるのです。もちろん、いろいろな大学の赤本を解いてほしいのですが、優先順位で考えますと、上記の例の場合、同じMARCHでも、傾向が異なる上、受験するかどうかわからない、例えば青学大の赤本をやるよりは、明大の他学部の赤本をやった方がいいというわけです(もちろん、青学大を受験する可能性があれば、全く問題はありません)。

11.国公立大志望者は、どの国立大の赤本をやっても効果あり

「10」のように、志望校・学部の赤本だけでなく、他学部の赤本も解くようにすると、例えば私大を7〜8校受験する場合、これらを全てやるだけでもかなりの問題量です。でも、国公立大の場合は、後期試験まで考慮したとしても、受験校は実質1校になる上、赤本は多くの私大のような学部別にはなっておらず、1冊に全ての学部の問題が掲載されています(共通問題も含む)。せいぜい東大や首都大などのように、文系学部と理系学部との2冊になっている程度です。これでは私大ほど問題量がこなせないため、志望校の赤本だけでは、対策をするのにも限界があります。

入手できればさらに古い年度の問題をこなす方法もありますし、傾向をふまえた対策ができる問題集を買ってこなすことも必要です。これらに加えて私がおすすめしたいのは、他の国公立大の赤本をできる限りこなしてみることです。私大の出題傾向が、大学によって大きく異なるのに対し、国公立大の問題は、もちろん大学間の違いはありますが、私大間ほど大きな差ではありません。しいて言えば旧帝大(北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州)や一橋大・東工大と、それ以外の国公立大とでは違いますが、傾向の違いというよりも、難易度の違いです。おそらく、「国公立大」という、いわば「同系列の大学」同士だからではないかと思います。これは、全国の公立高校入試の出題傾向に、都道府県による差が小さいの に似ています。この点を生かして、私立高校より公立高校の進学実績の方が良い県だけにしぼって教室展開をしている学習塾があるくらいです。同じノウハウでどの県の公立高入試対策もできるので、効率が良いのです。


・・・それはともかく、例えば英語なら、多くの大学で、「長文2問+英作文」になっていますし、日本史や世界史は論述が圧倒的で、問題数や制限字数の差がある程度です。たとえ東大の英語のような、要約問題やリスニングの問題があったとしても、志望校では出題されないとわかれば、それらはパスすればいいですし、もし東大を受験したいのであれば、同じく要約やリスニングが出題される、一橋大などの赤本も同時にやればいいわけです。もちろん、全ての国公立大の赤本をこなす必要はありませんし、それはいくらなんでも大変です。でも、「どの国公立大の赤本でも志望校対策ができる」ぐらいの考え方で取り組めば、いろいろな活用ができると思います。「受験しない大学の赤本なんて解いてもあまり意味がない」などと思わず、果敢にチャレンジしてみてください。

いかがでしたでしょうか。特別なことばかりではなかったかもしれませんが、どれも重要なことです。また、こうした内容の話を改めて聞く機会はありそうでなかったのではないでしょうか。実際、私の受験生時代にもありませんでした。もしこの場が初めてであれば、せっかくの機会ですので、ぜひあらゆる赤本を有効活用をしていただきたいと思います。

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